食道がんとは
食道がんは食道粘膜表面に生じるがんで、同時に複数発生することもあります。がんは3つの進行段階に分かれ、食道粘膜内に留まり転移がない早期食道がん、粘膜下層まで及んだ表在食道がん、固有筋層まで及んだ進行食道がんの順に進んでいきます。日本人では、食道中央付近に発生するケースが半数程度を占めており、その次に食道と胃の繋ぎ目付近に起こるケースが多いと言われています。
進行がんに至った場合、がん細胞が大動脈や気管など周囲の臓器にまで広がっていきます。また、食道壁内部の血管やリンパ節にまで浸潤し、血液やリンパ液に乗って全身へ広がり、食道外のリンパ節や肝臓、肺などの臓器にまで転移する恐れもあります。
このように進行した場合は深刻な状態になりますが、早期の段階で見つけられれば内視鏡を用いた治療で比較的楽に治すことが期待できます。
食道がんの初期症状は
ない?
食道がんは初期では自覚症状が乏しく、検診や人間ドックで偶然見つかることが少なくありません。進行した場合は、嚥下障害(飲み込む際ののどの違和感やつかえ感)、胸痛、背部痛、声のかすれ、咳、体重減少などの症状が起こります。食道がんを早期発見・確定診断できるのは胃カメラ検査のみのため、定期的に胃カメラ検査を受けましょう。
のどの違和感・つかえ感
食道がんでは初期症状として、食べ物を飲み込む際に胸の奥にチクッとした痛みを感じ、熱い飲み物を飲むと胸がしみる感覚を覚えます。
また、がんが巨大化すると食道が狭くなり、食べ物を飲み込むときにつかえ感を覚えます。つかえ感を強く感じるようになると、食事量が減ることで体重が減少していきます。さらにがんが巨大化した場合、食道が完全に塞がれ、水や唾液でさえも通らなくなり、吐き出してしまうようになります。
声のかすれ、咳
食道がんが気管・気管支にまで浸潤した場合、咳症状が見られるようになります。また、声帯の動きを調整している神経にまでが広がった場合、声がかすれるようになります。
胸や背中の痛み
がんが食道壁を超えて、大動脈や肺、背骨などにまで浸潤した場合、胸痛や背部痛などの症状が現れることがあります。
食道がんになりやすい
人・原因
飲酒
食道がんは飲酒・喫煙が主な原因となります。特に、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる方は注意が必要です。アルコールが体内に分解される過程でアセトアルデヒドという物質が生成されますが、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる方はアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の作用が弱く、アセトアルデヒドが体内で溜まってしまいます。アセトアルデヒドは発がん性の物質のため、体内に長時間溜まっていると、がんの発症リスクが高まります。
喫煙
タバコの煙には多くの発がん性物質が含まれているため、食道がんや肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がんなどを発症しやすくなります。
特に、喫煙習慣と飲酒習慣いずれもある場合、さらに食度がんの発症しやすくなります。
年齢が50歳以上
食道がんは比較的に男性が発症することが多く、40代からリスクが高まります。50代を迎えると発症数が急増し、70代でピークを迎えます、データによると、30代では人口10万人あたりの発症数は1人ですが、40代では約10人となり、60代後半では約90人となります。
女性も年齢を重ねるにつれて発症数が増えていきますが、男性よりもリスクは低くなっています。
食道の炎症
食道粘膜に炎症が発生する疾患を患っている場合、食道がんが発症しやすい状態です。
主な原因疾患には逆流性食道炎やバレット食道などが挙げられます。
逆流性食道炎(胃食道逆流症)
逆流性食道炎は、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆向きに流れ込むことで、食道粘膜に炎症が発生する疾患です。通常、食道と胃の境目にある下部食道括約筋は胃の内容物が逆流しないように閉じていますが、何らかの原因で緩むことで逆流が発生します。
下部食道括約筋が弛緩する原因には、加齢や暴飲暴食、早食い、肥満、姿勢の乱れ、衣服による腹部の圧迫などが考えられます。
また、逆流性食道炎は以下で説明するバレット食道の原因となります。
バレット食道
バレット食道は、逆流症状により食道粘膜を覆う扁平上皮が胃酸に晒され、胃粘膜に似た円柱上皮に置き換わった状態です。バレット食道は、腺がんの危険因子となります。
遺伝の関係
食道がんは遺伝的要因もあると判明しており、TP53遺伝子の変異などが関係しています。この遺伝子変異を招く要因には喫煙や飲酒が挙げられます。
また、ALDH2遺伝子(アルコールの代謝に関わる酵素の遺伝子)も発症に関係しています。ALDH2遺伝子はお酒の強さを決める遺伝子で、3つの種類に分かれます。この遺伝子のタイプに応じて「お酒に強い」「程々に飲める」「ほとんどの飲めない」と体質が決まります。
食道がんの検査・診断
まずは問診にてお悩みの症状などをお聞きし、その後に胃カメラ検査を行います。胃カメラ検査は、食道がんの早期発見・確定診断に有用です。食道がんの発症が認められた場合、重症度に応じて治療方針を決めていきます。
胃カメラ検査
(胃内視鏡検査)
胃カメラ検査では、食道粘膜を隈なく観察できます。怪しい病変が見つかった場合は組織採取を行い、病理検査に回すことで確定診断に繋げられます。造影剤による上部消化管造影検査という選択肢もありますが、この検査では初期の微小ながんを見つけるのが困難で、組織の採取も行えないため、最終的には胃カメラ検査を行わなくてはいけません。
当院では、初期の微細ながんも発見できる最新の内視鏡システムを導入しており、専門医が精緻な検査を行います。このシステムには、特殊光によって毛細血管の分布を鮮明に映し出すBLIが搭載されています。がん細胞は増殖する過程で毛細血管が周囲に集中する特性があるため、BLIによりがんを早期に発見することができます。
食道がんの治療
食道がんの治療は、内視鏡治療と外科手術が行われることが多いです。これら治療では切除が難しい場合、放射線療法や化学療法を行います。
初期の段階であれば、まずは内視鏡による切除を行います。外科手術と同等の根治性があり、侵襲性が低いため患者様への負担が抑えられ、回復が早いという特徴があります。なお、がんのサイズや数、浸潤範囲などに応じて、外科手術、放射線療法、化学療法などが選択されることがあります。内視鏡治療以外の方法で治療を行う場合、連携している高度医療機関をご案内します。
食道がんの生存率
食道がんは他のがんと同じく、進行度に応じて予後に違いがあります。
- 0期:87%(がんが食道粘膜に留まり転移がない状態)
- Ⅰ期:84.4%
- Ⅱ期:64.6%
- Ⅲ期:39%
- Ⅳa期:17%
- Ⅳb期:0%y(がんが食道壁を超えて、他の臓器に転移している状態)
上記のように浸潤範囲が広がるに伴って予後は悪化していきます。そのため、早期発見・早期治療が欠かせません。
食道がんの予防
食道がんの予防には飲酒や喫煙、肥満などリスク因子を減らすことが重要です。