炎症性腸疾患とは

潰瘍性大腸炎とクローン病は炎症性腸疾患に分類され、症状などに共通点があります。いずれの疾患も1990年代以降から発症数が急増しており、現在は潰瘍性大腸炎が約20万人、クローン病が約7万人の方が罹患していると考えられています。
炎症性腸疾患の原因
特異性腸炎
原因がはっきりとしたタイプです。ウイルス・細菌・寄生虫の感染症、薬剤性腸炎、急性出血性大腸炎、虚血性腸炎、大腸憩室炎、放射性障害などが挙げられます。
非特異性腸炎
原因がはっきりとしないタイプで、このタイプに潰瘍性大腸炎やクローン病が含まれます。他にも、単純性潰瘍やベーチェット病などもこのタイプに該当します。潰瘍性大腸炎とクローン病は完治させる方法が確立されておらず、厚生労働省より難病に指定されています。しかし、専門の医療機関で治療を続けることで、発症前とほとんど変わらない生活を送れることが多いです。なお、治療法には違いがあるため、消化器内科で確定診断を受けることが必要です。
炎症性腸疾患は完治する?
現時点では、残念なことに潰瘍性大腸炎やクローン病を完治させる術がなく、治療目標は寛解期(症状が落ち着いた時期)への導入・維持になります。寛解期になったかたといって治療を自己判断により中止すると、再燃期に移行してしまう恐れがあるため、医師の指示にしたがって治療を続けましょう。
炎症性腸疾患で食べては
いけないものは?
炎症性疾患を発症している場合、食事内容によっては腹痛や下痢などの消化器症状が起こる可能性があり、気を付ける必要があります。注意すべき食品としては、油分が多いもの、豚肉・牛肉などの動物性タンパク質、香辛料などの刺激物、牛乳・乳製品、炭酸飲料、お酒、洋菓子やスナック菓子、人工甘味料などが挙げられます。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは、大腸粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍が形成される疾患です。炎症が起こる活動期(再燃期)と症状が落ち着く寛解期を繰り返す特徴がありますが、炎症を抑える治療を続けることで寛解期を維持することが可能です。なお、原因ははっきりしておらず、完治させる術が現在のところ確立されていないため、厚生労働省から難病指定を受けています。寛解期に導入させるためには、他の疾患との鑑別診断、病状に応じた適切な治療が必要となるため、できる限り早めに当院までご相談ください。
同じく炎症性疾患であるクローン病とは症状や経過が似ていますが、病変が発生する部分が異なります。潰瘍性大腸炎では大腸粘膜に病変が発生しますが、クローン病では口から肛門までの消化管全域で病変が発生します。そのため、クローン病では栄養療法が必要になるなど治療法も異なり、正確な診断が求められます
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎は自己免疫により炎症が発生すると言われています。現在のところ、自己免疫の発生機序についてははっきりと分かっていませんが、免疫異常によりTNF-αと呼ばれる物質が過剰に作られることで、炎症が発生すると分かっています。
潰瘍性大腸炎の症状
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 発熱
- 貧血
- 体重減少
初期は、腹痛や下痢、血便などの症状が起こります。悪化した場合、動悸やめまい、頻脈などの貧血症状、体重減少、発熱などの症状が起こります。
潰瘍性大腸炎の検査と診断
まずは問診にて、症状の内容や起こり始めた時期、症状の経過、既往歴、服用中のお薬などについて詳しくお伺いします。問診後は大腸カメラ検査を行い、潰瘍性大腸炎特有の病変ができていないか調べ、炎症範囲や程度を確認します。検査中に怪しい病変が見つかった場合、組織の一部を採取して病理検査に提出し、診断を確定させます。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎は、症状が現れる活動期(再燃期)と症状が落ち着く寛解期を繰り返します。寛解期に症状が治まったからと自己判断で治療を中断した場合、症状が再燃・悪化する恐れがあるため、寛解期も治療の継続が欠かせません。
治療は薬物療法となり、症状が激しい場合は炎症を抑えるためにステロイド剤を短期的に使用します。
日常生活での注意点
寛解期に至ると発症前とほとんど変わらない生活を送れます。制限事項も厳しいものはないですが、寛解期をできるだけ長く保てるように身体に負担となるような行為は控え、健康的な生活を送りましょう。
運動
激しい運動は控え、軽い有酸素運動を習慣化しましょう。
食事
寛解期では食事制限は行いませんが、香辛料やカフェインなどの刺激物の摂取や暴飲暴食など消化器に負担となるような行為は控えてください。食事のバランスを整えることが大切ですが、ストレスとならないように食を楽しめるように工夫しましょう。
飲酒を避ける
アルコールの影響についてははっきりとしていないこともあるため、寛解期も過剰な飲酒は控え、程々に留めましょう。
潰瘍性大腸炎と妊娠・出産
潰瘍性大腸炎の患者様でも、寛解期を保った状態であれば、妊娠・出産・授乳を行う方は大勢いらっしゃいます。なお、妊娠中に再燃期に移行しないように医師の管理の下で治療は継続する必要があります。
妊娠が判明したことに慌てて治療を中断した場合、症状が再燃・悪化して母体や胎児にとって大きな負担となる治療を行うことになるため、妊娠が判明した場合はすぐに当院までご相談ください。胎児に負荷がかからないようにしながら寛解期を保つためには、普段よりも繊細な管理が求められるため、医師の指示にしたがって治療を続けましょう。妊娠を希望される場合、できるなら事前にかかりつけ医に妊娠後の治療計画を相談しておきましょう。
クローン病
クローン病は、口から肛門に至る消化管全域に慢性的な炎症が発生し、びらんや潰瘍が形成される疾患です。潰瘍性大腸炎と同じく、症状が現れる活動期(再燃期)と症状が治まる寛解期を繰り返す特徴があります。しかし、クローン病で発生する炎症は潰瘍性大腸炎に比べて大腸壁の深部にまで及ぶことが多く、腸管で深刻な合併症が起こりやすいです。また、潰瘍性大腸炎の炎症は大腸を中心に起こる特徴があり、この点でも違いがあります。クローン病の炎症が広範囲に及ぶと栄養障害に陥る恐れがあり、この場合は栄養療法を行って消化管を安静にする必要があります。このように潰瘍性大腸炎と共通点もありますが、炎症の発生部位や経過、治療法などに違いがあるため、正確な診断が求められます。
寛解期に移行したからといって自己判断で治療を中断した場合、症状が再燃・悪化するため、寛解期でも治療の継続が欠かせません。また、完治させる治療法が確立されていないことから厚生労働省から難病と指定されていますが、寛解期を維持することで発症前とほとんど変わらない生活を送れます。寛解期に導入させるためには、他の疾患との鑑別診断、病状に応じた適切な治療が必要となるため、できる限り早めに当院までご相談ください。
クローン病の原因
クローン病は自己免疫により炎症が発生すると言われています。現在のところ、自己免疫の発生機序についてははっきりと分かっていませんが、潰瘍性大腸炎と同様に自己免疫によってTNF-αと呼ばれる物質が過剰に作られることで、炎症が発生すると分かっています。
クローン病の症状
初期の主な症状には腹痛や下痢が挙げられます。炎症が広範囲に及んだ場合、栄養障害が起こる恐れがあるため、この場合は栄養療法を行って消化管を安静にする必要があります。また、クローン病は痔ろうを合併しやすく、肛門疾患の検査がきっかけとなり発見されることもあります。
- 腹痛
- 下痢
- 体重減少
- 発熱
- 肛門の膿や潰瘍
- 切れ痔
- 痔ろう
クローン病の検査・診断
まずは問診を行い、症状の内容や起こり始めた時期、症状の経過、既往歴、服用中のお薬などについて詳しくお伺いします。問診後は内視鏡検査を行い、クローン病特有の病変ができていないか調べ、炎症範囲や程度を確認します。検査中に怪しい病変が見つかった場合、組織の一部を採取して病理検査に提出し、診断を確定させます。
クローン病の治療
症状が現れる活動期(再燃期)と症状が落ち着く寛解期を繰り返します。解期に症状が治まったからと自己判断で治療を中断した場合、症状が再燃・悪化する恐れがあるため、寛解期も治療の継続が欠かせません。
治療は薬物療法となり、症状が激しい場合は炎症を抑えるためにステロイド剤を短期的に使用します。炎症範囲が広がっている場合、栄養障害が起こる恐れがあるため、この場合は栄養療法を行って消化管を安静にする必要があります。また、クローン病が重症化、あるいは重大な合併症が起きている場合は手術が検討されます。手術が必要な場合は連携先の高度医療機関をご紹介します。
薬物療法
薬物療法では炎症を引き起こすTNF-αの働きを抑制しますが、寛解期と活動期(再燃期)で使用するお薬は異なります。
寛解期に治療を中断した場合は再燃期に移行するため、寛解期も治療を継続する必要があります。また、寛解期を維持できていたとしても炎症は悪化していることがあるため、大腸カメラ検査を定期的に受けて経過を確認することも必要です。
食事や栄養療法
クローン病では、特定の食品により腸管が刺激され、炎症が悪化する可能性があります。腸管を刺激する食品は人によって異なるため、どの食品が刺激となるか把握しておくことが必要です。食品を特定できたら食べるのを控えて頂きますが、過剰に制限してしまうと栄養不良に陥り、かえって病状や体調の悪化に繋がります。
クローン病の活動期では栄養補給が十分にできなかったり、消化管を安静にすることが必要になったりすることも多く、この場合は栄養療法を行います。栄養療法は2つに分けられ、口や鼻から栄養剤を投与する経腸栄養療法、点滴で投与する完全静脈栄養法があります。完全静脈栄養法は、炎症範囲が広がっている場合や重度の狭窄が発生している場合に行います。
日常生活での注意点
寛解期の状態を維持できれば、発症前とほとんど変わらない生活を送れます。仕事や学校など社会活動に制限は特にありませんが、寛解期をできるだけ長く保てるように身体に負担となるような行為は控え、健康的な生活を送りましょう。
また、クローン病は特定の食品により腸管が刺激され、炎症が悪化する可能性があります。腸管を刺激する食品は人によって異なるため、どの食品が刺激となるか把握しておくことが必要です。なお、過剰に制限してしまうと栄養不良に陥り、かえって病状や体調の悪化に繋がるため、程々にしましょう。
運動
激しい運動は控え、軽い有酸素運動を習慣化しましょう。
食事
炎症の悪化を招く食べ物は、消化吸収機能や病変の発生場所などにより異なります。症状を悪化させる食べ物があれば、その食べ物は食べないようにしましょう。
活動期は、消化管に負担をかけないように脂肪や食物繊維の少ない食べ物を食べましょう。なお、過剰に制限してしまうと栄養不良に陥り、病状や体調の悪化に繋がるため注意しましょう。
飲酒を控える
アルコールの影響についてははっきりとしていないこともあるため、寛解期も過剰な飲酒は控え、程々に留めましょう。
禁煙する
タバコに含まれるニコチンはクローン病を悪化させることが判明しているため、禁煙を徹底してください。
クローン病と妊娠・出産
クローン病の患者様でも、寛解期を保った状態であれば、妊娠・出産・授乳を行う方は大勢いらっしゃいます。なお、胎児に負荷がかからないようにしながら寛解期を保つためには、普段よりも繊細な管理が求められるため、医師の指示にしたがって治療を続けましょう。妊娠を希望される場合、事前にかかりつけ医に妊娠後の治療計画を相談しておけば、妊娠後にスムーズに治療内容を変更できるので安心です。
妊娠が判明したことに慌てて治療を中断した場合、症状が再燃・悪化して母体や胎児にとって大きな負担となる治療を行うことになります。そのため、妊娠が判明した場合はすぐに当院までご相談ください。